「千日前紀行」

第181話
不定期連載
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2007年9月8日(土)
昨日までより少し涼しく感じられる朝の街を、チャリンコ漕いで中央区の
オフィスビルへと向かった。
本日の任務は喫煙室のガラス、及び壁面清掃である。

AM10:00 道具を片付け任務終了。
御堂筋を南下し、難波の行きつけの布地屋へ向かった。
土曜の朝とあって、御堂筋の人出はまだ少なく、イチョウ並木の下、快適な移動であった。
千日前を越え、パチンコ屋の裏にチャリを止めた。
布屋でお目当ての綿布を2メートル購入し、大型書店でしばらく立読みにふけった。

AM11:20 早目の昼メシにした。千日前商店街の雰囲気にやられ、雑居ビル2階の
お好み焼き屋に入りオムそばを食った。
カウンターでは、オッサンが美味そうに生ビールを飲みながら注文が来るのを
待っていた。
腹の中から、難波とシンクロした私は、商店街を抜け、タワーレコードに寄り
試聴機を巡りながら、買うつもりで来たブルーハーブの過去のシングルを手に取り
レジに向かった。
支払いを済ませ、黄色い袋を手に、窓の外を眺めながらエスカレーターを降りた。

アーケードを抜け、午後の光に変わったチャリ置き場から、再び漕ぎ出し家路に就いた。
早速、買ってきたCDをかけて、キャンバスの作成に入った。
「大阪夏の陣図屏風」

第182話
2007年9月9日(日)
本日、ビル清掃は休みだったので、午前中は、作業の続きをした。
昨日、裏面にジェッソを塗った再制作用の実験的キャンバスの表面に薄めた下地剤の
1回目を塗り、別口の完成したキャンバスをパネルに張った。

ひと段落してから、わんぼる君が天満の方に出掛けるというのでついて行った。
天神橋筋をうろつき、わんぼる君の用事も完了し、どうしようとなった。

そう言えば、先日ニュースで、大阪のお宝公開の一環で、大阪城では“大阪夏の陣図屏風”
(重要文化財)を公開していると言っていたのを思い出し、東西線で一駅ということもあって
行ってみる事にした。

以前、天守閣に上った時、そのレプリカを観た事はあったが、その時は
「昔の大阪城って黒かったんやぁ・・」程度の印象だった。
しかし、そのニュースでは、屏風を観たおっさんが、「これはすごいわ〜」とか
合戦図屏風の最高傑作と言われていると伝えていたので、我々はちょっと期待して
大阪城北詰で降り、午後の陽が照りつける中、天守閣をめざした。

高まる気持ちで城の中に入り、平静を装い5階から収蔵品を観て回った。
3階まで下って、回っていると“それ”は現れた。やはり噂は本当だった。
金地の雲の切れ間にびっしりと描かれた軍勢は、脳にビリッと来る刺激で、
この作品が、明らかに突出した魅力を放っている事実を確認した。
考えてみれば、豊臣勢には大変辛い作品だなぁと思いながらも、目の前の作品が
テンションを変えてくれる快感を楽しんだ。

また、同じフロアには、秀吉直筆の辞世の句も展示してあった。
そこには、「朝露のようにはかない人生だった」と詠まれており、続けて、
「なにわの事もゆめの又ゆめ」(“なにわ”と“なにもかも”を掛けてあるとの事)
と記されていた。
少し、切ない気持ちで我々は、天主閣から眩しい外へ出て
みやげ屋の軒先でフローズン・ソフトを食って帰った。
「週明け」

第183話
2007年9月10日(月)
パラパラと降る小雨の中、配達・集金とまわり、いつもの様にスーパーでの
買い物まで完了し帰宅。
わんぼるランチを頂き、晩飯のカラスカレイの煮付けまで作ってから作業に入った。

昨日完成した実験的キャンバスをパネルに張り、本番の下塗りまでした。
期待と不安の入り混じった心境で予定の工程まで終え、明日からの作業の心持ち
を再確認し、道具を片付けた。
筆とバケツを洗い、ついでに洗面台の掃除をして制作の憂いを洗い流した。
ニュースをつけて晩飯のおひたしのモロヘイヤを洗った。
「再挑戦」

第184話
2007年9月11日(火)
今朝、植木に水をやろうと薄暗いベランダに出ると、外は寒いくらいの涼しさだった。
こりゃ、Tシャツ一枚じゃイカンと上着をはおって営業所へ向かった。
冷えた街の空気のせいで、心にスコーンと穴の開いたような寂しさを感じながらチャリ
を漕いだ。
早朝の静かな歩道の脇からは、コオロギの声が聴こえていて、こんなところで、
よく生きとるなぁ・・とその声を聴きながら秋の寂しさが加速するバック・ストリートを
漕ぎ進んだ。

通常どおりの任務を終え、帰宅し、わんぼるランチを頂いて作業に入った。

改訂版とはいえ、同じ画題への二度目の挑戦は、やはり、筆の運びに緊張とためらいが走った。
一作目の教訓から導き出した理想に近いはずの線を引けば引くほど、不思議と、憧れや
トキメキから遠のいて行く様で、筆の運びのコントロールや、一発ごと絵具を置くかけひきに
実力が問われ、かなりおもしろかった。
大方の勝負がつき、これでよし! とつぶやき、筆を置いた。

明日は、もう一方の対の作品への再挑戦である。
「おれの問題」

第185話
2007年9月12日(水)
今朝も北区の街は涼しかった。いつもの様に運送業務〜買い物を終え帰宅。
ザ・ワイド見ながら、わんぼるランチを頂き、立ち上がり茶わんを洗った。

道具をひろげ、昨日の対となる作品の、真っ白な画面を前に、その霧の向こうに
見えるこれから到達しようとする風景をにらみ、絵具をしぼった。
霧を掻き分けながら描き進み、クリアーな風景がつかめそうになると、昨日同様の
問題が襲って来た。
またかと思い、一旦立ち上がり、アホらしさを取り戻し諸問題をかわして、これで
良し!とした。

洗濯物をたたみながら、ニュースを見て、おひたし用のモロヘイヤ(128円)を洗った。