不定期連載
「法善寺のチューリップ」
第12話
2007年2月9日(金) 17:00 浴室で私は、リキテックス・チタニウムホワイト(ハードタイプ)を含んだブラシを
丹念に洗い上げ、ベランダで、ひとしきり水気を払うと、午前中の雨で、すそが湿ったジーパンに脚を通しました。
今日は、学生時代からの知人であるミムラさんが、関西に来ているのです。くつを履き扉を開けます。
6階から望む北区の風景は、天気予報通り、湿った空気で霞んでいました。
扉の脇にかけていた傘をぶらさげ私は、歩き始めました。
待ち合わせのホテルのロビーは、歩いても行ける距離です。考えてみれば、ミムラさんと会うのは、
かれこれ、3~4年ぶりです。
懐かしさに湧く気持ちを抑えしばし歩きホテルに着くと、ティーラウンジのむこうで手を振る人。
おぉ~!おひさしぶりです。
とりあえず椅子に座りコーヒーを頼みました。何から話せばいいのやら、久しぶりの照れくささを隠し切れませんが、
それでも弾む会話から、空いた月日のパズルがだんだんと、埋まっていきます。
そうこうしている内に、仕事を終えたわんぼる君も合流し、私達3人は、いざミナミへと向かいました。

事前にミムラさんに、3軒ほど、候補をあげて伺っていたところ、ちょっとディープな中央区島之内の
羊串焼き店“故郷”に行ってみたいとのことでしたので、(さすがは、ミムラさんです。あとの2店は、
地元商店街の安心できる良質な本格中華と、大阪のうどんの老舗“今井”を挙げました。
私、ここの甘味も好きなんです・・!ぜんぶ自分が行きたいとこばかりですが・・・。)
 

地下鉄で日本橋下車。道頓堀や千日前にむかう人をよそに、堺筋を東へむかう稀有な私達。
昭和な感じの旅館や、ブラジルの国旗を掲げたあやしげな民家を過ぎ、さらに暗がりの
向こうに羊串焼の看板が灯っています。“故郷”です。階段のステップには、ハングル、中国語、日本語で
「いらっしゃいませ」の文字が書かれています。

週末の店内は盛況で、我々は、カウンターへ通されました。まずは、紹興酒を温めてもらうことにしました。
お通しは、大根のキムチ、茹でた落花生、山菜のキムチが出てきました。
紹興酒は、なんと日本酒の徳利で燗されてきて、当然の様に、お猪口が渡されました。
乾杯し、おのおの興味のあるものを注文しました。メニューは中国語?で、写真付なので、
その画像と、語感から推測しての注文となり楽しめます。
串焼きは、羊肉・血管・羊筋を注文。(小皿に唐辛子主体の香辛料が渡され、これをつけて食べるのですが、
辛味と甘みが同居している中に、さらにクミンが入っており、これが不思議なアクセントとなっています。
羊は臭くなくて、脂がとても甘かった。)
空芯菜炒め、水餃子(皮も手作り、厚みが旨い。)、土豆炒め(→じゃがいもやった。青唐辛子が効いていた。)、
排骨酸白菜汁(ぼろぼろに煮込んだパーコーと白菜のあっさりした、ちょっと酸っぱいスープ、八角の風味。)
・・・これらは、いったいどこの料理なんだろうと思いながら食い進みました。
店の隅には、中国語の新聞。テレビは、NHKニュースでした。

ミムラさんのデジカメで近況の写真を観せていただきながら、出てくる料理を楽しみました。
デジカメの画面には、学生時代お世話になった方が、時の経過は感じるものの、変わらない
笑顔でほほえんでいました。また、私が知らないうちに、もう、先立ってしまった方のことを伺い、
知らなければ(知ってしまっても)、自分の中には、元気な姿で生き続けている
ことの不思議と共に、確実に過ぎてゆく時間の中に、今日もいる事を静かに感じました。

このあと、八幡筋の韓国屋台にいってみることにしていたので、とりあえず締めようと温かい
お茶を頼むと、薄いガラスのコップに熱いとうもろこし茶が注がれてきました。あっつい~
いいながら飲み、店を出ました。(3人で7,000円でした。)

外は、小雨が降り始めていました。
タクシーが並ぶ八幡筋を西へ歩きました。夜のお店のドレスや、タイガースのユニフォーム
をきたSATOちゃんを、はしゃいでデジカメにおさめるミムラさんに私とわんぼる君は、こころ洗われる気持ちになりました。
韓国の屋台には、トッポギや天ぷらや、揚げ餅がならんでいました。
私達は、お目当ての韓国鯛焼き(?)を食べました。日本のと、姿かたちが違い、小柄で金魚みたいです。
がわもシナモンの味がして、薄いとこはパリッとしていて、厚みのあるとこは、弾力があります。(あんこは、つぶあんです。)
傘をさして、鯛焼き片手に、おかまバーの呼び込みに含み笑いをしながら、道頓堀へむかいました。
週末の戎橋は、雨とはいえ、賑わっていました。ミムラさんが1つ食べてみたいとのことで
大たこを1皿買いました。文字通り、くいだおれ状態でした。
法善寺横町でお不動さまにお参りしました。供えられたチューリップや菜の花が、苔に映え
とてもかわいらしくて、横丁の方々の思いが伝わってきました。

丸福珈琲で、強力なコーヒーを飲んで、楽しいひとときを締めくくると、私達は、地下鉄に乗りました。
ミムラさんをホテル前で見送り、わんぼる君と家路につきました。
胃の中には、ミナミの混沌が、胸の中では、さっきまでの楽しい時間がはやくも、思い出になっていくのでした・・・。
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「不安かみしめる」
第13話
2007年2月16日(金)
今週は、ノドの痛みに始まり、風邪かなと思っていたら、翌日は、くしゃみ連発‥。
あぁ‥やって来ました。花粉の季節。目、痒いわ‥。
今日は、昨日完成した作品と、今のところ出来ている作品、これから作るやつのエスキ−スを交え、
展示に向けての現状を確認しました。
一応、エスキ−ス通りに来てはいるのですが、いざ、現物になって来ると、これでいいんやろか‥と
不安になってきます。
かと言って、ここで、やり方変えると、自分を見失ってしまうので、
このまま行きなさいと私自身に指示を出し、鼻水をすすったのでした。
「京橋~雨の千日前」
第14話
2007年2月17日(土) ビル清掃AM8:45 JR京橋駅改札 社員の方と待ち合わせ現場へ。
仕事とはいえ、初めて行く場所は新鮮だった。
今日は2人で、小さな事務所の床面洗浄。
10:00ワックス乾き待ちの為、現場前の公園で休憩。向こうに帝拳ジムのビルを見ながら缶コーヒー。しばし談。
ワックスの乾燥を確認し、現場復旧。道具かたずけ、10:45作業終了。
続いて日本橋の現場へガラス清掃に1人向かう。地下鉄乗り継ぎ恵美須町下車。
PM1:30 任務無事完了。さっき京橋の現場で貰った“さんけん茶”という謎の缶のお茶を飲みながら傘さして歩いた。
(ハトムギベースの一筋縄ではいかない味が、意外にも、作業終了後の体をクリアーにしてくれた。)
通りがかりの定食屋で、500円の玉子丼を食った。具は、卵、かまぼこ、玉ねぎ、ネギだった。
値段の割には、ショボいけど憎めない味だった。
ジュンク堂に立ち読みに行くと、よゐこの2人が握手会をしていた。
きれいな空気をかもしていて、思わずハッとして見とれた。行列で立ち読みできんやったけど、
嬉しい気分で店を出た。
せっかく、こっちまで来ているので、黒門市場で、晩の買い物をすることにした。
野菜はスーパーと違って、茎が太く、威勢が良くて、テンションが上がった。(葉付きの大根と小松菜を買った。)
脳天を打ち抜かれたフグを横目に、魚を見て回ったが、2人で食べるのに丁度良い量と値段の物を見つけらず、
それでも黒門らしい物が買いたかったので、惣菜屋で、昆布巻きと大根そぼろ煮を買った。
家に帰り、雨で濡れた買い物袋を拭いた。
手足を洗って一息ついて、スーパーバタードッグの昔のシングルを聴きながら、米を研いだ。
「春のおとずれ・・・」
第15話
2007年2月21日(水) AM7:00~運送屋。本日、最高気温15℃とのことで、花粉に備えマスク持って配達へ。
案の定、昼前から、くしゃみ連発・・。最悪やー。はよ終わってくれー。
PM12:30終了。スーパーで買い物して帰る。(ジャスコの裏でタンポポ咲いとるの見た。)
昼飯食って、キャンバス作った。綿布のシワをとり、ジェッソを塗った。
終わって、ネスカフェ・ゴールド・ブレンドいれようかと思ったけど、
花粉のせいか、気分がわるいのでやめた。ヤカンに残っていた白湯を飲んで、
晩飯のおひたしの小松菜を洗い、ニュースをつけた。明日は、雨だと聞きちょっと嬉しかった。
「レッツ・ゴー!」
第16話
2007年2月23日(土) タワーレコードに行った。見たことあるジャケットに眼がとまった。
よくみると、ラモーンズのジャケットの真似でロマーンズって書いてあった。
女の子3人組らしかった。
試聴してみた。“へいっ!ほーっ!”とあの曲がはじまって、コピーなのに、胸おどった。
直訳(?)らしい歌詞が耳に飛び込んで来て、詞の中の街を、俺は、希望を持って走り回って
いた。俺も頑張ってみようと思った。手持ちの金無くて買えなかったけど、陽気に口ずさんで帰った。
2007年2月28日(水)昨日から、わんぼる君北海道出張の為、久びさの一人暮らし状態です。
センチな気分に浸るはずが、今週、私は、運送屋とビル清掃のダブルヘッダーの日々。
部屋は、寝に帰るだけの労働者の宿舎です。
(まぁ、考え様によっては、普段もその様なものかも知れませんが。)
食事は、時間も無いし一人なので、無理に作らなくてもいいのですが、
昼・夜と続いての外食は、体調的にも辛いので、晩飯は、結局作ってしまいます。やはり野菜は、生き返りますね。
特に春先は、アレルギーで荒廃した細胞をやさしくなだめてくれます。
一人で生活サイクルを送ると家での会話が無い分、家事への集中力が高まるのか、
動作の節々に、自分を維持するためだけに生きている事をつくづく感じます。そんな基本的な事、改めて感じています。

浪人時代、初めての一人暮らし、引越してきた初日に、何からすればいいか分からなくなって、ガスも来てないのに、
メザシを買ってきてしまった事を思い出しました。
(あの時は、優しい大家さんが、カセットコンロを貸してくれました。)
第17話
「ホーム・アロ~ン」