不定期連載
2007年3月26日(月)
夕方、私は、ビル清掃の為、中央区のビルの27階にいました。
ガラスの向こうには、コンクリートだらけの街並みに夕日がオレンジ色の輪郭を際立たせて
沈んで行くのが見えました。
まるで、地表を堅い殻で覆い尽くしていくかの様な人間の営みに、複雑な思いを抱きつつも、
結局のところ俺は、この営みに参加し、豚丼食って喜んだり、
焼酎飲んで笑ったりしとるんやなぁ‥と思いながら黙って作業しました。
PM7:30作業終了。
さっきまで、俯瞰していた街の細部に収束された私は、
チャリを飛ばし、細い路地をくぐり抜け、スーパーに寄って野菜とおかずを買って帰り、
秒速で晩飯を作ったのでした。
「社会生活」
第29話
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2007年3月23日(金)
午後12時半、本日の職務を終えた私は、行列のATMから、今月の生活諸経費を払戻すと、
家賃〜国保といった支払いに奔走し、ひとまず、毎月の恒例行事を無事に終えました。
続いて、スーパーで晩の買い物を済ませ、いざ帰路に就こうとした時、
営業所に、制服を忘れてきた事に気付きました。
今日は、4時半に歯医者へ銀歯の続きに行かないと行けなのに‥!
悔やみながらも急いで、引き返しました。
再び、出発。ダッシュで帰宅。
明日から、天気下り坂らしいので、洗濯しとかねば!と焦る気持ちで鍵を開け、
部屋の電気・テレビ等をつけました。が、この時間帯のTV番組のテンションでは、
現在の私の任務と時間の間で引き裂かれそうな心情を、
実行に加速させる力に乏しかったので、私は、CDプレーヤーに、イースタン ユースを載せ、
ボリュームをあげました。
スピーカーが唸りはじめると同時に、私は、蛇口をひねり、
洗剤をぶちまけ洗濯機を回転させました。ギターが唸れば、泡立ちも勢いを増していきます。
私は、ビートに呼応しながら、制服の襟首・袖口に石鹸を擦りつけ、
一週間の職務と格闘し、命をまっとうした、我が皮脂達に別れを告げました。
洗濯の間、昼飯の用意と、晩飯の下準備をし、脱水まで済ませて、飯にしました。
チャンネル変えながら食っていると、センバツ高校野球で手が止まりました。
テレビに映し出されるアルプス・スタンドやバックネット越しの風景は、独特の空気で何故か、心惹き付けられます。
マウンドに射す眩しい光の向こうに、ぼやけて見える芝生と大観衆。
時折、アップになる球児の表情や、細い肩は、部活帰りのじゃれ合う姿や、授業中の風景を連想させ、
彼らがまごう事無き高校生である事を伝えてきます。球場にいる全ての人が、
二度と無い時間を共有している事が伝わって来ます。

私は、しばし、観ながら、飯を食い終えると、立ち上がり、食器を洗い、洗濯物を干しました。
そして、何とか歯医者に間に合いそうな事に胸をなでおろし、歯を磨いて部屋を出たのでした。
「俺、奔走・・!」
第27話

2007年3月24日(土)
本日、ビル清掃は入っていません。つまり、休みです!
わんぼる君と、喜び勇んで、滋賀の国宝・彦根城へ出掛けました。天気予報では、
午後から雨との事なので、早めの出発です。
JR大阪 8:00発の新快速に乗り込み、京都〜山科〜大津と東海道を西へ向かいます。
9:20彦根到着。
改札出ると、あの、国宝・彦根屏風の複製が迎えてくれました。テンション上がります。
そして、駅のあちこちには、築城400年記念キャラ“ひこにゃん”があしらってあります。
(先日、ニュースで、彼が天守閣を掃除しているのを観て、
その存在は、認知していたのですが‥。)
窓からは、通りの向こうに目指す城が確認出来ました。よっしゃ!いざ、出発です。
城へ向かう途中も、商店街のあちこちに、ひこにゃんの折り紙や、手書きのポップ等、
目にしました。かなり、愛されている様です。
そうこうしていると、石垣と堀が見えて来ました。
並んだ松越しに見える堀と端正な石垣のパースペクティブが緊張と期待を高めます。
入城料を払い、順路に従い、まずは開国記念館で基礎知識を得て、重文だという馬屋を見学。
いよいよ、表門から入城です。思った以上の坂道から見える櫓に胸高鳴ります。
坂を登りきると見事な天秤櫓にみとれました。
上に上がった所の茶屋で、甘酒を飲んで一休み、店の方がくれた焼き落花生をかじりました。
櫓をくぐり、いよいよ本丸へ‥。最後の石段を昇ると現れました!彦根城!
想像以上にコミカルでキュート!
嘘みたい!(もともと、四層のものを移築して三層にしたらしいです。
そのせいもあるのでしょうが‥。)
こりゃぁ、ひこにゃんも生まれるわ‥。
ぽんぽん咲いた梅が、いっそうポップさを引き立てます。複雑な瓦構成も大変魅力的です。
中に入ると、流麗な外観とは一変して、大胆な丸太の梁が天井を行き交い、
確かに400年の凄みを感じさせていました。
さらに、多くの年配の方々が夢中に激急な階段を昇っていたのも驚きでした。
こうして、一通り観て回った我々は、城を後にしました。
(同時開催していた、ワダエミ展、映画“利休”の衣装も感激でした。
信長・家康の衣装良かったなぁ‥。)
商店街で昼飯食って、雨も降り始めたので、少し早いですが、帰路に就きました。
部屋に帰って、時間あったので少しだけ作業をしました。
晩飯は、面倒くさかったので、通り向かいのホルモン屋へ行きました。
ほどよく酔った私は、内心、明日のビル清掃に憂鬱感を抱きながらも、
酔いにまかせて店を出ました。雨がいっそう降っていて、濡れた路面に、
パチンコ屋のネオンがにじんでいました。
「ひこにゃん!」
第28話
2007年3月28日(水)
午後3時、ガラス清掃終了。ダッシュで帰宅。
昨晩、梱包した作品を抱えて、浪速区立葉のスタジオPIXさんへ、展示のDMの為の撮影に向かいました。
PIXさんは、元来、わんぼる君が仕事でお世話になっているスタジオで、5年程前から、
毎回、展示前になると作品を撮影していただいています。
(HPに掲載している作品の写真も、PIXさんで撮っていただいたものです。)
毎回、梱包〜撮影の時期になると思うのですが、それまで、部屋や作品におびていた、
妄想の霧が消えていき、作品は、只の乾いた絵の具とパネルに思えてきます。不安と覚悟。出荷の季節です。
PM5:30スタジオ到着。早速、撮影開始です。
PIXさんの撮影は、毎回そうですが、作品に関する感想等、一切はさまず、只々撮り進んでいきます。
私は、作品の開梱・梱包を繰り返します。
PM6:30撮影終了。
スタッフの方がいれてくださったコーヒーをいただきながら、しばし、談笑。
(今日の晩飯の話になり、私が、イワシ煮だというと、「またぁ〜!」と言われた。)
PM7:00前、スタジオ出て、再び、作品担いで、すっかり暗くなった先程来た道を帰りました。
部屋に帰ると、私はテレビとCDプレーヤーを同時につけ、
過ぎ去っていく妄想に晴れやかな気持ちになっている事を感じながら、
晩飯の準備にとりかかったのでした。
「出荷の季節」
第30話