「4/9」

第395話
不定期連載
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2008年4月9日(水)
穏かな天気となった大阪の街を配達業務に勤しみ、晩の買い物と巡った。今日は、いつものスーパーから、国道沿いの酒屋へと
向かった。日本酒の季節もそろそろ終わりかなぁ・・と思いながら、今季ラストになるかも知れぬ一本を選んだ。
値段と気温に相談しながらラベルの前を行き来し、東北の酒も素晴らしいが、西国に住む私は、広島の銘酒で瀬戸内の春を想うのも
良いかも知れんと“賀茂鶴”の純米にしてみた。

買い物ツアーを終え帰宅した私は、昨日、絵が一段落した嬉しさから、number girlの“SPACE GIRL KASOKUSOUCHI”をかけた。
久しぶりに薄明るい午後の部屋に、爽快なビートが鳴り響き、俺の心は明るさを増した。ふと、カーテンの脇からベランダを見やると、
鉢植えのイチゴの葉がいつにも増してシュッと元気に伸びていた。急いでカメラを持ち出し、外に出て、のぞき込むと茎のたもとには
小さなツボミが備わっていた。決して条件が良いとは言えない我が家のベランダにも、少し遅れて春が来た様だった。

感謝と共にわんぼるランチを頂き、晩の味噌汁の下準備をしつつ、100円で購入して来たアラスカ産・カラスカレイの端切れを煮た。

(最近は、立原正秋氏のエッセーからの影響で煮物には砂糖を使わず、酒・醤油・味醂のみで行っているのですが、これがクリアーな
仕上がりで素晴らしいです。さすがは立原氏です! またNHK“今日の料理”の情報から、カレイは煮過ぎるとコラーゲンが溶け出して
しまうとの事なので、強めの短時間煮に変えたのですが、これがまたシュッとした仕上がりで気に入ってます。)

無事、諸作業を完了した私は、画室に赴き、新プロジェクトに着手した。予報では、今晩からまた雨とのこと。頑張って行きたい。
「4/10」

第396話
2008年4月10日(木)
強い雨風で始まった本日の大阪地方。腹を括った私は、合羽を着込んで配達コースに出た。交差点を渡り、南向きの道路を走っていると、
不意に雲が切れ、鮮やかな光が射した。黒い路面のあちこちに出来た水たまりに透き通った空が映った。すぐに空は灰色に戻ったが、
俺の心には、まぶしい反射が残った。

結局、その後は大した雨には遭わず、無事、配達〜集金と任務を終え、へろへろとスーパーに向かった。雨は止んでいたが雲行きは
あやしく、いつまた降り出してもおかしくない感じだった。出来ればトイレットペーパーまで買いたかった私は、前のめりに購入を決め、
チャリのカゴを満載にして帰路に就いた。案の定、雨がぱらつき始めたが“うおりゃ”とペダルを踏み込み家に帰った。
今晩は4匹398円で購入したウルメイワシを焼こうと思う。
「4/11 金曜日」

第397話
2008年4月11日(金)
穏やかな天気となった週末の北区の街を、浮つく心を落ち着けながら運送業務に勤しんだ。今日は、学生時代から、いろいろと
お世話になっている敏腕ディレクターのリリーさんから、「旨いもん食わせてやるから出て来いよ!」とお誘いを受けていたのだ。
詳しくは分からないが、梅田の百貨店で催されている北海道の食のイベントに絡んでいるらしかった。

轟々としたJR大阪駅の高架下にチャリンコを止め、暫くすると向こうからリリーさんが現れた。元気そうだった。
エレベーターでイベントフロアに通され、さまざまな食品にたじろぐ私を、混み合ったラーメン屋さんへと案内してくれた。
以前案内されたお店とは、また違っていて、暫く待つとリリーさんお勧めの塩ラーメンが運ばれて来た。青いどんぶりの中は、
白いスープに黄色いちぢれ麺と白ネギが透けていて、その風景に、そんなにラーメン通で無い私も、「あぁ、北だなぁ・・」と
思った。レンゲでスープをすすると、味覚が梅田のイートインの店内から旅の車窓を喚起し、行った事の無い北の地の風景が広がった。
(やはり前回同様、その味が持つ空気感と、食べている場所のあまりの距離感に、罪悪感の様な気持ちが生じたが、感謝を胸に
頂きました。)

ラーメン屋さんを出た私は、ソフトクリームが食べたい事を告げると、リリーさんは、牧場で放し飼いの牛の乳で作られたものが
あると教えてくれた。列に並び購入し、レストスペースに腰掛け、二人で食べた。真っ白なクリームを口に含むと、スーッと雪の
ように溶けていった。その余韻に、何故か切なさを感じた。

祖母と実家に何か菓子でもとうろつき回り、気温と日持ちの関係から、乾燥イチゴを使ったというチョコレート菓子を購入した。
(おいしいものである事を願う!)帰り際、先程のソフトクリーム屋さんの前を通ったので、「おいしかったです・・!」と
伝えると、「ぜひ北海道に遊びに来て下さい!」と返って来た。「行きますよ!」と答え、会場を後にした。

リリーさんに御礼を述べ、チャリの鍵を開けた私は、我が運送会社の駅前ビル営業所から購入した菓子を発送し、スーパーへ
向かって漕ぎ出した。(帰り道、信号待ちの間、舌を軽くやけどしている事に気が付いた。歩道の植え込みには、白いツツジの花が
咲いていた。)
2008年4月12日(土)
久しぶりに二人揃って休みとなった本日。悲しくも、結局いつもの時間に目が覚めてしまった私は、ゆとりある朝に頬を緩め、
ベランダの植木に水をあげて小さな音でニュースを聞きながら新聞を広げた。

AM7:00 朝食の用意をしているとわんぼる君が起きて来た。明るい部屋で二人で摂る朝食はやはり嬉しく、テレビの画面は、
いつの間にかマスターズゴルフに変わっていて、そのゆるやかな風景に休日感は倍増した。

昨日、漠然と京都に行きたいと話していた私に、わんぼる君が京都国立博物館で開催中の河鍋暁斎展の前売り券を
用意してくれていて(・・感謝!)、我々は、食器の片付け〜部屋の掃除までし、一段落着くと、いざ京都へと出掛けた。

雑多な人々で混み合う京都駅のコンコースを抜け、ゆるゆると京博まで歩いた。暖かい光が差す歩道には、よもぎが生えていて、
俺はその様子に大阪とは、また違った情緒を感じながら歩いた。桜の花びらが舞う鴨川を渡り京博に到着した我々は、いざ
暁斎展へと入場した。

河鍋暁斎・・私、まともに作品やその人生を知りませんでしたが、本日得た知識によると歌川国芳〜狩野派に学んだそうで
その絵の技術は文句なしに巧みで、会場は大量の下絵〜掛軸、屏風、画帖、舞台の引き幕、杉戸絵と絵だらけで、延々と
創作活動の系譜が展開していて大変面白かったです。私は、特にどの作品が好きというより、制作過程や経緯がずっと続いて
行く様子に気持ちが昂りました。

膨大な作品の流れを楽しんだ我々は一旦会場を出て、芝生の間に咲いたタンポポに和みながら平常展示館に向かいました。
(平常展示・・私は、会場2階で観た本阿弥光悦の書の軸装2点がグッと来ました。書と紙・裂の構成だけで、何故ここまで
心を動かせるのか分かりませんが、光悦氏の短距離で飛来する感性の矢じりには、やられてばかりです。)

ひとしきり京博を楽しんだ我々は、もう一押し何か観たいと思い、桜の季節の終わりを偲んで、あの等伯氏の名宝を有する
智積院へ向かった。ひとまず、会館の食堂で昼食にうどんを食って、宝物館に向かった。が、残念な事に、桜図は、等伯氏の
故郷・石川の美術館に里帰りしていた。が、その代わりに氏晩年の作の“十六羅漢図”が展示されていた。(楓図や秋草図は
普段通りありました。)十六羅漢図・・初めて観ましたが、やはり等伯氏独自の筆づかいは、何故か心にみずみずしく、
またしても、どこか切ないざわめきを引き起こしました。羅漢達の人間的な瞳が印象的でした。

利休好みと伝えられる庭園を眺め一息ついた我々は、智積院を後にし、東大路を歩いた。バスに乗るタイミングが無く、結局
鴨川に出て、サギやスミレを眺めながら四条まで歩き、永楽屋でグリーンティーを飲んだ。甘く冷たいグリーンティーで生き返った
我々は、錦市場で今晩のおかずに南瓜の天ぷらと、地トマト、おひたし用にニンジン葉(美味いんやろか?)、ネギ(ぬた用)を買って
帰った。
「河鍋暁斎〜錦市場」

第398話
「日曜の午後」
第399話
2008年4月13日(日)
PM1:00 大淀の現場のPタイル洗浄を終えた私は、空腹がくい込む体をあやつりチャリンコを漕ぎ出した。
我がホームタウンへと舵をとり、昼飯はまだ食ってないというわんぼる君と途中の公園で落ち合った。(公園の桜は、もう立派な
葉桜になっていた。) 地元商店街の外れの食堂に入り、僕は野菜イタメを、わんぼる君は肉じゃがを食った。
(じゃが芋を1コ貰ったので、もやしをあげた。)

帰り道、スーパーに寄って買い物をした。二人での買い物とあって、大根や味噌といった重みのある品物にもポジティブな気持ちで
臨む事が出来た。(今日は、カツオのタタキの短冊が398円と普段より安くなっていた。家に新タマネギの買い置きがあったので購入を
決意した。)

昼下がりの明るい部屋に帰って来た私は、日曜の午後の解放感からか、ボブ・マーリーをかけて煮きりを作った。
スピーカーから広がる乾いた音のせいか、夕方になる前の空に明るい希望を感じた。軽く煮立った小鍋の火を止め、煮きりをガラスの
カップに移した。部屋に醤油とみりんのいい香りがスッと残った。

明日からの作業の準備を少しだけやって、わんぼる君のシンディ・ローパーをかけ、味噌汁の下準備をした。