「本日の私」

第400話
不定期連載
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2008年4月14日(月)
雨上がりの穏やかな天気となった本日の大阪地方。無事、与えられた運送業務を完了した私は、スーパーへと向かった。
気温の上昇は、諸業務において、更なる熱量を要求し、俺のしょぼい体を侵食し始めていた。俺は、落ち窪む眼球で
スーパーマーケットの売場状況を把握し、任務の遂行にあたった。帰り道、米びつの底が見え始めていた事を思い出し、
飢えた心を無にして米屋へと舵をとり、北海道産“ほしのゆめ”を5キロ購入し帰宅した。

無事、帰還した私は、濃い目の味噌汁を作り、わんぼるランチと共にちゃぶ台に並べ、栄養を渇望する各細胞達に分配した。
上昇して行く血糖値をほうじ茶でなだめ、レッドツェッペリンをかけ、遠のきつつある意識を取り戻した。晩の味噌汁の
下準備まで完了させ、ピコピコタイマーをかけて15分間の眠りに就いた。


PM7:00 本日の作業目標(パネル制作)まで完了し、おひたしの水菜を洗った。ニュースをつけて、コンロのグリルに水を張り、
三重産の丸アジ2匹・198円に切れ込みを入れ塩を振った。はよ食いたい。
「今日の私」

第401話
2008年4月15日(火)
本日も好天に恵まれた大阪地方。配達〜集金と任務を完了した私は、晩の買い物まで済ませ、無事、帰宅した。
ダッシュでキャベツの味噌汁を作ってわんぼるランチと共に頂き、晩の味噌汁の下準備を終えると、難波へキャンバス用の
綿布を買いに出た。

平日の午後とは言え、戎橋商店街は雑多な人々で賑わっていた。私は、その人波をかき分け、必要な布地を入手し、続いて
心斎橋筋の画材屋へ絵の具を買いに向かった。アーケードに時折現れる東西に開けた道路からは、西日で飽和した空気が
流れ込み、商店街をオレンジ色の空気で満たしていた。プリクラや安っぽいアクセサリーやバッグやらが続く通りを人混み
と一緒になって歩いた。暖かな光で満たされているはずのその風景は、今日の私には、疲れのせいか、悲観的に見えた。

(そんな中、軽薄なヒップホップ風な店の店頭のパーカーがえらく可愛く見えた。近付いて見たかったが、先日、自分で切った
頭髪が、毎度の如くやばい仕上がりとなってしまっている私は、店先でアクティブに呼び込みを展開するギャル姉ちゃんの存在に
たじろぎ、興味の無い事にして通り過ぎた。・・悲しく、寂しい瞬間だった。)

画材屋で必要な絵の具を選び出し、トホホとため息ついて支払いを済ませ、店を出た。夕暮れの長堀通りに出た私は、少し
ほっとして西大橋まで歩いた。オレンジから濃い青へと変わっていく空の下、四ツ橋の歩道で見た白いツツジが、しんみりと
やさしく、きれいだった。
「4/16」

第402話
2008年4月16日(水)
予報では夜からとなっていた雨が、昼前に降り始めた本日の大阪地方。“聞いて無いよーっ!!”な状況であったが、幸運にも、
早々と配達が終了し、まともな雨に遭う前に営業所に戻っていた私は、雨宿りと折りたたみ傘で掻い潜り、スーパーへ向かった。
買い物を終え、店を出ると雨は止んでいて、空は明るさを取り戻していた。アスファルトから蒸発する雨のにおいがくさい歩道を
ペダル漕いで帰った。

今日から、新しい作品の実作業に入れる喜びが心に充満していた私は、NYの3人組が'92年に放った火薬の様なラップ・ミュージック
をかけて、己のクソみたいな現実を勇気に変え、春キャベツの大きな葉をガバっとむしり、味噌汁を作った。
ちゃぶ台に、わんぼるランチ・解凍ご飯・味噌汁を並べ、ズバッと食いあげ、晩の味噌汁の準備までやって、自家製キャンバスを
作った。

PM7:00 本日の全作業を終了した私は、再びブルックリン・サウンドをかけて部屋を祝福し、納豆を掻き混ぜた。今晩は398円で買って
来た高知産のトビウオの刺身である・・!!
「4/17」

第403話
2008年4月17日(木)
予報では、一日中雨と告げられた本日の大阪地方。止みそうに無い雨が降り続ける北区の街へ任務遂行に飛び出した。
ずぶ濡れになりながらすれ違う他社の配達員との軽い挨拶の瞬間に滲む言葉にならない思いが、俺らの心に青白い炎を
灯している事を確認し、微笑みながらそれぞれのエリアへと散った。

業務の峠を越える頃、雨は弱まり、少し気温の下がった風が街に吹き始めた。俺のくたびれたゴアテックスは、徐々に
浅い色を取り戻していった。

いつもの様に買い物を済ませ、帰宅した。薄暗い部屋にカバンを降ろしながら、昨日作った真っ白な画布の向こうに、
疲労と空腹が掘り起こした風景を投影し、手足を洗ってわんぼるランチを用意した。
2008年4月18日(金)
曇りの予報が出ていた本日の大阪地方だったが、いざ配達に出ると霧雨〜ふつうの雨となってしまった。
念の為、持参した愛用のゴアテックスが剥落したジャンパーで耐え忍び、どうにか任務を完了した。

ちゃっちゃと買い物済ませて帰宅し、排ガスや酸性雨が蒸留した制服を洗い、心の疲労を軽減した。
わんぼるランチを頂き、298円で買って来た千葉産のサバを煮て作業に入った。

今日は、昨日、張り終えたキャンバスに向かい、いよいよ本制作となった。今まで通り、エスキースに基づき、過去の経験から
導き出した方法で作業を進めて行った。が、画面の雲行きから判断すると、どうやら、そのやり方では、今回の心の残像を画面に
照射する事が出来ない事を、残念ながら認めなくてはならない様だった。

(まぁ、常に自分も変わっているのだから、仕方あるまい。ごまかしてもしょうがないので、諦めて取り組もうと思う。
・・技術と精神、常に二人三脚で食らいついて行きたいものである。)

PM7:30 本日の行き止まりまで到達し、作業を諦める為、炊飯を開始し、道具を片付けた。
明日からもっとパンツをくい込ませて頑張ろうと思う。
「本日の私」

第404話
2008年4月19日(土)
AM9:30 ひとまず北浜の現場の階段室の洗浄を終えた私は、地下鉄に乗り込み、難波のガラス清掃現場へと向かった。

PM1:00 無事、ガラスのエントランスの透明度を引き戻し、達成感と空腹を抱えて現場を後にした。すぐ近くの定食屋に
入り、豚ケチャップ炒め・春雨サラダ・ごはん大・味噌汁(計473円!)を食らった。

定食屋を出た私は、家に、雲行きの良くない描きかけの絵が待っている事を重々承知しながらも、タワーレコードに向かい、
暫し逃避をはかった。一通り試聴機をめぐり、そろそろ行くかと帰宅を決意し、ヘッドフォンを戻した。
(エスカレーターの降り口に出ると、いつの間にか、外は明るい光が差していて、ガラスの向こうには、向かいの工事現場の白い
ビニールシートが光に透けているのが見えてきれいだった。)

地元の駅に出ると、空はまた灰色に戻っていた。へろへろと家に帰り、部屋に置かれた描きかけの絵を眺めた。当たり前だが、
昨日の状態から何も変わっていなかった。手足を洗って、ラモーンズをかけた。スピーカーから射す明るみに励まされ、バケツに
水を汲んで、制作に入った。

PM7:30 部屋の窓を開け、濁りまくったバケツと筆を持って画室から這い上がった。画布の上の画像には浮かばれない疲労感を
感じたが、昨日の状態で諦めるよりマシだと思った。酸欠になった頭を冷やしながら、筆を洗って、わんぼる君が作って下さった
夕食を感謝と共に頂いた。もうひとふんばり頑張ってみようと思う。
「本日の作業報告」

第405話