「今日の私」

第418話
不定期連載
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2008年5月2日(金)
大型連休前日、曇天の大阪地方。本日は物量も多く、街全体も忙しなく感じられた。あたふたと走り回り、何とか任務を終えた私は、
毎度の如く、スーパーへ向かった。鮮魚コーナーには、立派な島根産のツバスが丸のまま一匹399円の値を付けられて並んでいたので
煮付けにしようと思い、二枚卸しにして貰った。
無事帰宅し、わんぼるランチを頂き、煮付けまで完成させて、昨日の続きに入った。

PM6:00 とりあえず、帳面上に出揃った素材をカバンに突っ込み、部屋を出た。外は風が強くて、酸欠気味の俺の頭には助かった。
一番近所のコンビニで、ひとしきり素材をコピーし、再び風に吹かれて部屋に戻った。レディオヘッドの1st をかけて、少しだけ
続きをやって、小松菜洗って、納豆をかき混ぜた。
2008年5月3日(土)
GWも、いよいよ後半戦が始まり、一気に人気が無くなった北区の街の中を、不在票を片手に配達業務に奔走した。
無事、任務を終え、一旦家に帰り、ライブ版のわんぼるランチを頂いてから、北浜東の現場のカーペット洗浄に向かった。

PM5:30 予定されていた全作業を終え、現場を後にした。今日は、わんぼる君の友達が大阪に遊びにいらしているとの事で、
晩飯に誘われていた。何でも、天神橋筋商店街にみんなでいるとの事なので、とりあえず川を越えて、南森町方面へと歩いた。

JR天満駅近くで、一行と合流し、商店街を戻りながら途中気になった韓国スーパーに併設された食堂に入ってみた。
韓国の瓶ビール〜キムチ、豚足、チョレギサラダ、マッコリ、イカフェ、チャプチェと食い進んだ。酔いと疲労が加速させる
ノリだけでサーフして行く全く脈絡の無い会話に笑い続け、チヂミ、韓国海苔巻き、冷麺、わかめスープと食らった。
とうもろこし茶を飲んで、落ち着いた我々は、店内の韓流グッズや韓国食品をしばし眺め、終わりが近付いた旅気分を名残惜しんだ。
何か買いたい様な、かといって、どれもいらん様な気分だった。が、やはり何か買いたかったので、私は、レジ前の高麗人参ガムを
買った。

店を出て、皆でくさいガムを噛みながら駅まで歩いた。商店街のピンクのシャッターに描かれたプードル犬が、人生の酸いも
甘いも知っている様なまなざしで微笑んでいて、みんなで思い思いの感想を言いまくって笑った。楽しいひと時だった。
「GW」

第419話
2008年5月4日(日)
本日からGWへと突入した私は、朝の白い光とシンクロしながら、植木に水を撒き、運送屋〜ビル清掃のユニフォームを洗濯した。
“おはよう日本”を見ながら、本日出勤のわんぼる君と朝食を摂ると、スケッチブック類をカバンに突っ込み、一足先に部屋を出た。
(ここのところ、配達コースで気になっている風景があって、多分それは、そこを通る時の光の角度のせいだと思われたので、一度、
各種メディアを用いて記録しておこうと思ったのだ。)

一通り記録を終えた私は、現場近くの空いたミスドに入り、手に入れた情報を整理した。アメリカンで一息つくと、再びチャリンコ
漕いで、ANDOさんの建築を巡りながら淀川の河川敷に出た。草の緑と真っ青な空が続く土手は、(“愛宕山”じゃないけれど)
ヒバリが、ピーチクパーチクとあっちこっち飛び回っていてなかなかの楽しさであった。ひとしきり走って、土手を降り、スーパーで
晩の買い物を済ませて、部屋に戻った。

今日は、午後から、敏腕ディレクターのリリーさんから、「梅田でモデルの杏さんのトークイベントあるから観に来いよ!」と
お誘いを受けていた。私、ファッションの事など全く疎く、人種としてそぐわない気がしたのだが、リリーさんの話によると、
何やら熱そうなので、こりゃ行くべきかなと思い、梅田行きを決意した。(昼飯は駅の近くで醤油ラーメン(ねぎ・もやし多目)を
食って向かった。)

モデル志望風の女子が占める会場に紛れて臨んだトークショー・・。高鳴るSEの中、女子達の“ぅわぁー・・!!”という憧れと
ため息が入り乱れたざわめきの中、登場した杏さん・・。研がれたフォルムと強い眼差しはやはりカッコ良くて、放たれる言葉に
矢じりの様なものを感じました。ショー舞台裏のリハーサルも無しでステージへと飛び出していく話からは、客席に斬り込んで行く
ロックミュージシャンの様なテンションの高さが伝わって来て、鮮やかな興奮が脳をよぎりました。

帰りがけ、エスカレーターを降りながら、何故かブルーハーブ・BOSS氏の“瞬間を嗅ぎ分け たった一発にかけろ!”という言葉が
頭の中を回っていました。
「本日のわたし」

第420話
2008年5月5日(月)
夢の連休2日目となった本日。これ以上寝れん・・!! というところまで眠り、もぞもぞと起き上がった私は、ベランダに出て、
植木に水を撒いた。日照時間の延長と気温の上昇に伴い、我が家の小さな植木鉢の中は、苔、シダ、カタバミ、苺、萩による
過酷な生存競争が展開されていて、このままでは皆、共倒れになりそうな勢いとなっていた。私は意を決し、それぞれの芽を
間引きし、それぞれの幸せを願いながら来るべき季節に備えた。

本日から休みとなったわんぼる君と共に、ズーム・イン!〜連ドラの“瞳”を見ながら朝メシを食った。今日は、いつものパン、
キャベツのサラダに目玉焼きをプラスしてホリディ感をアップした。(初めて見た“瞳”は、ストーリーはよく分からなかったが、
画面に映し出される佃島や永代橋の水色の風景に、心の中で止まっていた思い出が少し溶け出して、嬉しいような気恥ずかしい
ような何とも言えない気持ちになった。)

片付け〜掃除と済ませた我々は、特に行きたい所も思いつかず、コーヒーを入れ、わんぼる君が先日買ってきた電気グルーブの
新譜の特典DVDを観た。(“少年ヤング”と“モノノケダンス”のクリップが収録されていたのですが、幼少時代の憧れ〜侘しさに、
まんだらけのショーケースを圧縮したかの様な映像は、想像以上のクオリティで圧倒されました。私はアルバム以上に明快で濃密な
印象を受けました。)

興奮冷めやらぬ脳ミソに、間髪入れず、わんぼる君は、友人から頂いたという天才バレリーナ“シルヴィ・ギエム”のビデオを
取り出した。(それはギエム氏が二十歳の頃の舞台〜リハーサル、練習風景で構成されており、映し出される映像は、バレエの事など
何も知らない私でも、釘付けになってしまう程、恐ろしく高い意識で統率された身体表現の連続で、その美しさに溜息をつくばかり
でした。また、ちょっとした表情がとてつもなく可愛くて・・・更なる溜息を誘うのでした・・。
比べるのはおかしいのかも知れませんが、ロックやパンク、ヒップホップに見られる大衆の心情をレプレゼントする様な感動は
こういった感動には及ばないのでしょうか・・。ギエム氏への悔しさと憧れに打ちのめされた私は、アンダーワールドの
“クロコダイル”を低音を増強して打ち鳴らし、氏の影響が随所にちりばめられたダンスを一人、気が済むまで踊って自問自答し続け
ました。)

AM11:00 我々は、特に行くあてもないまま部屋を出て地下鉄に乗り込んだ。何となく難波で降りると、地下街は若いカップルを中心に
ごった返していた。人混みをすり抜け、地上に出た我々は、高架下の天一で、アサヒのスタイニーとギョーザ、こってり・麺固めで
ホリディ感を祝い、大型書店〜アメ村と闊歩した。どこも人が多くて、普段気になる様なディティールが、正直どうでもよく感じ、
居場所が無い感じだった。

結局、早めに引き上げ、スーパー寄って帰った。今日は気分を変えて、味噌汁になめこを入れようと思う。
「連休2日目」

第421話
2008年5月6日(火)
夢の連休、最終日となった本日。カーテン越しの明るさに、もぞもぞと起き上がった私は、朝メシ前程度に少しだけ作業をし、
脳ミソを現実に繋ぎとめた。今朝も目玉焼きをプラスした朝食を、わんぼる君と共に“瞳”を見ながら食って、“ちりとてちん”
の総集編に目を奪われながら、居間に掃除機をかけた。(“ちりとてちん”は、ほとんどわんぼる君から話を聞くだけだったので、
ソウソウさんの居酒屋でのイノセントな結果的告白シーンには、不覚にも、少女漫画に読み入ってしまったかの様な“じゅんッ!”
とした感情が生じてしまった。そこに、コソウジャクさんの寂しそうな瞳が追い討ちをかけるので、掃除機を手に黙って立っていた
私は、朝からソウソウさんとコソウジャクさんに翻弄される無力な主婦と化してしまった。)

無事、掃除を済ませた我々は、玄関の扉を開け、眩しい光の中、緑地公園の中にあるという“日本民家集落博物館”なる所へ出掛けて
みた。

初めて歩いた緑地公園は、広大な敷地に木漏れ日と芝生が続く気持ちのいい場所だった。家族連れが展開するバーベキューのにおいの
中を抜けて博物館到着。どことなく日本民藝館を彷彿させる入り口は、河内布施の農家の納屋を兼ねた門の移築だそうで、思っていた
以上にコアなノリが伺えて、館内への期待は高まった。博物館という名前ではあるが、日本各地から収集された民家は全て野外に移築・
復元されていて、南は奄美大島、北は岩手と全12棟が、それぞれの気候と植生の配慮を踏まえた上で配置されていた。

どの民家も、昭和30年代まで実際に人々が暮らしていたものとの事で、心の準備が出来て無かった私には、一軒一軒大変なインパクトで、
外〜内部と観るほどに、連綿と受け継がれてきた祖先の営みが随所に刻みこまれていて、正直なところ、大変重い内容だった。
それぞれの風土と日々の営みへの切実な願いから生まれた意匠はどれも大変美しかった。(信濃秋山の民家の中にあった祝い事用の酒桶
は、スッとした面取りに薄赤い塗りが美しく、これを用いて人生の節目を祝っていたのかと思うと胸がつまった。MUJIで雑貨を見る様な
目で観るのはおかしいのかも知れないが、とてもきれいだった。)

私としては、今日が暑かったせいかもしれないが、奄美大島の高床の倉庫に、“南の島のフローネ”を思わせる様な楽しさと明るさを
感じて魅かれた。また、摂津能勢の農家(江戸初期)の土壁や、竹を用いた天井には、侘び数寄の茶室の元ネタを観た気がした。農家を、
研ぎ澄ました空間に再構成して上流階級の社交の場に持ち込んだ利休・・。コワイわ・・。

予想以上に集中力が要求された集落博物館を出た我々は、園内の広場の売店でスーパードライを買い、食券スタイルの休憩所で、
私はカツカレー、わんぼる君はちゃんぽん麺を持ち寄り、芝生で遊ぶ人達を眺めながら、夢のGW最終日を締め括った。
「連休最終日」

第422話