「本日の私」

第457話
不定期連載
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2008年6月10日(火)
本日も蒸し暑くなった北区の街を集金〜配達と奔走し、任務を終えた私は、エネルギーの燃焼が残していったベタツキと虚脱感を
抱えつつ買い物を済ませ、取り寄せが入ったという図書館に向かった。

ここのところ、わんぼる君が買ってきたROCK名盤の本をちょこちょこと読んでいるのだが、やはりおもしろくて、渋谷氏の評論集が
読みたくなったのだ。“日本人にとってロックは、コタツでライナーノーツを読みながら聴くもの”という言葉は、かの甲本ヒロト氏
によるものであるが、思い返してみるに、十代の頃の私にとって、現在の礎になったロック体験というのは決して、なけなしの金を
持って週末のクラブやなんかに集い、現実への不満とやるせなさを爆音に乗せて一晩中騒ぐといったものではなく、定期試験前などに、
兄の部屋へ赴き、数学の証明問題等の教えを請うと、その解法と共に付いてきていた、兄による“このアルバムのどこが凄いのか講座”
の存在がまず第一にあった。
兄が教授する「ビートルズ“アビー・ロード”における伏線の張り方」や、「デヴィッド・ボウイ“ジギー・スターダスト”1曲目
“ファイブ・イヤーズ”の連呼に込められた気持ち」といった講義には、難解な数学の問題に幾通りもの解法を導き出す兄の中に
存在する深い絶望と希望を垣間見る様で、直情的な音楽傾向にあった私は、そこで初めて現実の裂け目の様なものを教えて貰った
様に思う。

帰宅し、渋谷氏のロック評論を少し読んだ私は、兄と過ごした時間を思い、キャベツの味噌汁を作り、わんぼるランチを頂いた。
(そんな兄も現在は素敵な一家の大黒柱で、それでも何年か前にあった時は、結局お互いレッド・ツエッペリンの話をし続けた。)

さまざまな思いが交錯する中、パネルにキャンバスを張り、下地を塗った。
本日は、京都産のトビウオ(298円)に、水菜のおひたしで行きます。
2008年6月11日(水)
蒸し暑さがまた一歩加速した本日の大阪地方。日本中から到着した荷物を待ち侘びる北区のオフィースの人々の元へ無事届けると
いう名目の元、己の生活費を稼ぐべく、本日も過剰な情報とスピードを要求し続ける社会に参加した私は、湿気た街を東奔西走し、
任務の完了と引き換えに手に入れた全身のベタツキと空腹を抱えながらチャリンコを漕ぎ、スーパー〜八百屋と巡って帰宅した。

冷蔵庫に食材を仕舞いながら、着ていたTシャツの汗臭さとアトピーに沁みる身体のヌメリに耐えかねた私は、地球温暖化も
省みず、白昼堂々、気が済むまでシャワーを浴び、気分一新、味噌汁を作り、NHK高校講座(理科“奇跡の星 地球”)をほっほーんと
見ながらわんぼるランチを頂いた。

晩の味噌汁の下準備まで終え、中毒になってこそ確かな効能を発揮するカフェインを念入りに抽出した私は、西洋人が奏でる
エレクトリック・ギターのリフとドラムが生み出す躍動感溢れるサウンドに乗せて、それを血流にまわし、多大な環境破壊の
犠牲の上で上空に到達した最新の実験施設が指し示す希望と絶望の葛藤に俺も負けてはおれぬと立ち上がり画室へ向かった。

今晩は、CO2をぶちまけながら宮城からかなりの鮮度を保ったまま運ばれてきたカツオの短冊・398円を使って、テレビで知った
和歌山の郷土料理“かち”(カツオの刺身を醤油、砂糖、溶き卵に漬け込んだもの)を作るつもりだ。おひたしはツルムラサキ148円
である。
「6/11」

第458話
2008年6月12日(木)
若干のパラつきをみせた雨も配達前には上がり、クあっと晴れた本日の大阪地方。毎度の如く東奔西走、汗ばみの末、
任務完遂、今日はわんぼる君がお休みだったのでダイレクトに帰宅し、ライブバージョンのランチ(豚生姜焼き・
小松菜おひたし・キャベツと若布の味噌汁)を頂いた。

有難く温かい食事を頂き、片付けを済ませた我々は、身支度をし、心斎橋へと向かった。何でも、我が故郷・北九州で
パン職人をしている妹から、昨晩、食品会社主催の講習会アシストとして来阪しているとの知らせを受けていたのだ。
夕方には仕事が終わるとのことだったので、ひとまず、実家の父母と祖母にお土産をと思い百貨店をうろついた。
(結局、毎度の塩昆布と、銀装のカステラになった。) 土産を手に、せっかくなので妹にも何かプレゼントをとわんぼる君と
アメ村をうろついた。人への贈り物、しかも年下で冗談が許されるとあって、我々は、なかなか前のめりな体勢でショー
ウインドウを眺め、自分なら絶対に買わない様な物にばかり眼を止め、笑いまくった。結局、二人共にすぐに惹かれた
ラスタピーヤな店にあった、ローマ字で“ジャマイカ!”と書かれたピンクの麦ワラ帽子に決定し、待ち合わせの地下鉄改札へ
向かった。

考えてみれば、大阪の街を妹と歩くのは初めてだったが、不思議と違和感は無かった。以前、知り合いの方が、法善寺の
お不動さんにお参りすると手仕事が上達すると言っていたのを思い出し、横丁に向かった。
いったい何を願っているのか長々と手を合わせている妹を待ち、我らは道頓堀を闊歩、うどんの老舗・今井に入った。
平日夕方の比較的空いた店内で座敷にあがり、再会を祝してビールで乾杯した。ちりめんじゃこと青唐辛子の和え物、穴子の肝煮、
天ぷらと食ってから、きつねうどんを頂いた。ラストは、関西の夏の味覚“ひやしあめ”で風呂上りのひと時の様な風情を楽しみ、
お互いの無事と健康を願った。

20時台の新幹線には乗りたいとの事だったので、早めに店を出て、大たこの筋から道頓堀川を渡った。橋を渡りながら西の空を
眺めるとピンクと水色の縞模様がきれいで、そこには夏の始まりと懐かしさが滲んでいる様に感じた。

19:50 新大阪の新幹線の改札で、ラスタピーヤな袋を提げた妹に手を振り、我々は土産売りの声が飛び交う構内を抜け、我が路線
へ乗り込んで家路に就いた。
「6/12」

第459話
2008年6月13日(金)
今朝は、昨日妹から頂いたフレッシュなクランベリー、ピスタチオ、胡桃がぎゅうぎゅうに詰まった握りこぶしの様なパンを
焼かないままスライスした奴をぶおりぶおり食べて、その充足感で元気一発、扉を開け、沢山の到着荷物が待つ我が営業所へ
向かった。青く澄み渡った空の下、白く眩しい日射しを全身に受けながら、任務に奔走し、毎度の如くスーパー寄って帰った。

明るい光と週末の開放感から心軽やかに帰宅した私は、まずはアンプリファーの電源を入れ、オーストラリアが誇る半ズボン
を穿いたロックの化身が、強力なリフで引率する素晴らしいせめぎ合いの矢じりを部屋中に飛び交わせ、我が脳の構成が一瞬で
組み替わる覚醒に助けられながら、植木の水やり〜米研ぎ〜味噌汁作りと同時進行し、結局、NHK高校講座を見ながら、わんぼる
ランチを頂いた。

今日は作業に入る前に、まずは父の日の贈り物を出しに行きたかったので、簡単なメッセージをしたため梱包し、最寄りの営業所
へ向かった。

無事、発送を済まし、部屋に戻った私はシャワーを浴びて気分一新、いざ制作に入った。

PM7:00 本日の目標を達成し、ニュースと少年ナイフを同時にかけ、部屋の空気を換えながら筆を洗った。
今晩は、三重産の丸アジの刺身に、納豆、ツルムラサキのおひたし、味噌汁はニンジン・じゃが芋・エリンギに若布で行きます。
「本日の私」

第460話
2008年6月14日(土)
丸一日休みとなった本日の私。休日出勤のわんぼる君と“おはよう日本”見ながら頂き物のクランベリーのパンを食い、掃除〜
洗濯と分担、完了し、コーヒーを入れた。“瞳”見ながら一息ついて、わんぼる君を見送った私は、AC/DCかけて頭を切り替え
画室に入場、ハイロウズで作業を開始した。

AM11:15 ひとまず乾き待ちを兼ねて早めの昼メシに出た。休日の一人メシはラーメンやなと思い、チャリンコ乗って高架の先の
ラーメン屋に向かった。(今日は早メシ日和なのか、早くも店は混み始めていたのでカウンター席に着き、醤油ラーメン・ネギ多目
を食らった。)

午前中のすがすがしさが若干残る街の空気に嬉しくなった私は、ディスカウントの自販機で80円の“BOSS・無糖”を買って、
飲みながらペダルを漕ぎ、特に用事もなかったが、梅田の本屋に向かった。暫し立ち読みに耽り、スーパー寄って買い物済ませて
帰宅した。

作業・後半戦は、ラモーンズで開始、ハイロウズで佳境に至り、無事完成、ビートルズで片付けた。(客観的には、一日中、音楽を
聴いているだけの人だった。)

蚊取り線香焚いてベランダに出て、洗濯物を取り込み、植木に水を撒いた。今晩は、鮮度の良さを口実にアイデア・調理において
手抜きなカツオの“かち”である。
「今日の私」

第461話