「少年にとって」(4点連作)より 「Yくん 門前仲町交差点」
第3回 |
この作品は、大学院の修了制作(4点連作)のうちの1作目で、
当時住んでいた、江東区の門前仲町で知り合った地元のスケーターのYくんが
夜の交差点をみつめている風景です。
荒涼とした都市風景のスケッチを続けていた私は、夏が過ぎて行くと共に加速していく自身の
不安と孤独を夜の風景に重ね合わせるようになりました。
修了制作は、そうして集めた写真やスケッチの中から4点を選び、ろうけつ染めで作品化しました。
この「Yくん」をはじめ、路上駐車の車、捨てられたコンビニのビニール袋、高架下の植え込み
の4点を描きました。
いずれも、夜の風景で、綿布にひいた蝋をニードルで描線を繰り返し引いて削りました。
当初は、殺伐とした風景に、ある種の夢や希望を込めて、刺繍を施す予定でしたが、
制作を進めるうちに、それが偽善的なものに思え、闇を描く事に集中しました。
また、完成した作品を貼るパネルもベニヤ地のままにし、自分としては、当時、感じていた
殺伐感をうまく定着できた様に思います。
こうして修了制作を終え、ついに卒展を迎えました。
驚いた事に、作品は、様々な方から好意的な感想をいただき、私は思いが届いた様な気がして
喜びを抱きしめました。(同級生からのシンパシーはとてもうれしかった)
しかし、なんせ制作の動機が、私の個人的な卒業前の不安〜センチメンタリズムと、工芸〜美術の
間の葛藤を主軸としていましたので、この作品のテンションが、二度とやって来ないことは
分かり切っていました。
今後、制作を続けるにしても、まずは学校を出て働かない事には、どんな展開になるか全く想像
できませんでした。
そんな中、私は、ひょんな事から、この年の1月に写真センターの助手の方を通じて知り合った
大阪在住のわんぼる君と意気投合していました。
東京での長かった学生生活をリセットしたかった私は、思い切って大阪に行って仕事を探す事に
しました。
こうして、私は、わんぼる君の住む大阪のワンルームに転がり込む形で学生時代から脱出したのでした。
1999年 綿布 染料 ベニヤ板 120×160×1.5cm